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ブレストセンター

「乳がん」をよく知っていただくために

目次

 

1

どうして人は「がん」にかかるのでしょうか?

どうして正常な細胞が悪性に変化するのでしょうか?

がんは遺伝子の病気といわれることがありますが、どういうことでしょうか?

 1-1 がんはどのようにできるのか? ―多段階発がんモデル

 1-2 がんのリスク因子

 1-3 おかしくなっている遺伝子を調べて治療する―がんゲノム医療

1-1

がんはどのようにできるのか?
― 多段階発がんモデル

がんがどのようにできるか、その全てはわかっていませんが、ある程度までは解明されています。

まず、ひとつ、たとえのお話です。

あるところに、生まれたときは純粋無垢な子供がいました。

しかし、両親が喧嘩したり、ネグレクトされ心に傷を負ったり、だれにも打ち明けられないうち、徐々に悪い仲間とつるむようになってきます。

段々、タバコを吸ったり、バイクで暴走するなど、悪事を重ね、最後は凶悪なギャングになってしまいます。

初めは悪いところのない純粋無垢な子供だったのにも関わらず、ネグレクトによる心の傷や悪い出会いなどが重なると、最終的には悪いギャングになってしまう。

実は、がんになるのもこれと似たプロセスです。

初めは全く悪いところのない正常細胞が、だんだん悪くなってがん細胞になっていきます。

正常細胞の遺伝子に、何らかの原因で一つ一つ傷がついていき、最終的にがん細胞になる。

これを多段階発がんモデルと言います。

がん細胞

1-2

がんのリスク因子

では、遺伝子に傷がつく(遺伝子変異が起きる)のはどのようなときでしょうか。

乳がんの環境リスク因子

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エビデンスグレード(◎:確実 ○:ほぼ確実)

実は、細胞の遺伝子に傷がつきやすい環境の要因は、既にいくつか明らかにされています。

生活習慣でいえば、肥満、アルコール、喫煙がリスクとして知られています。

授乳歴がないこと、また、晩期出産や出産歴がないことも、リスクになります。乳癌の家族歴も大事で、血縁が近いほど、人数が多いほどリスクが上がるとされます。

遺伝性乳癌卵巣癌症候群として実際に母から娘へ受け継がれる遺伝子異常がある場合もありますが、それらのケースを除いても家族歴はリスク因子とされ、その理由は、母と娘は食事の嗜好・習慣などの環境因子が似ることが多いためと考えられています。

1-3

おかしくなっている遺伝子を調べて治療する
― がんゲノム医療

人間には約3万個の遺伝子がありますが、「がん細胞のなかで、どの遺伝子に傷がついている(おかしくなっている)のかを調べて、その遺伝子がつくるたんぱく質を狙って治療する」という医療も始まっています。

がんゲノム医療と呼ばれます。

 
 
 
 

2

標準治療とは何ですか?
さらに優れた治療はあるのでしょうか?

標準治療とは、最低ライン・最低限の治療なのでしょうか?
さらに優れた、プレミアムな治療ってあるんでしょうか?

乳がんの治療を受ける患者さんたちの中には、「標準治療を凌駕するような、もっとすごい治療があるのではないか?」「高いお金を払ったら、もっと効果が高くて辛くない、プレミアムな治療が受けられるのではないか?」と考えられる方もいるかもしれません。

標準治療は最低ラインの治療?

プレミアムな治療

標準治療

あるの?

しかし、標準治療こそが、世界中の施設で何万人という乳がん患者さん達に協力してもらって得られた、叡智の結晶です。例えば、AとBの治療のどちらがより効果があるか、その一つの答えを出すために何千人規模の試験を行います。

世界中で生まれた乳がん治療に関する臨床試験の結果を集め、たくさんの専門家が話し合って、推奨する治療をまとめているのがガイドラインです。日本であれば乳がん診療ガイドラインとして出版され、インターネット上でも公開されています。もちろん、個々の患者さん毎に多少のバリエーションはありますが、治療の大枠はここから外れることはありません。

現在の日本は、ガイドラインに則った標準治療を、保険診療で受けることができる、非常に恵まれた環境です。そして、標準治療を、高いレベルで実施する病院こそが良い病院と言えます。

ブレストセンター

・がん専門病院ではない、総合病院としての利点を生かした治療

・伝統と革新の融合

・乳がん治療に特化した専門看護師

・各科との連携をさらに密接にするクラスター診療

 

3

乳がんの治療の考え方について

乳がんの治療は患者さん毎に本当に様々です。
どんな治療をするかは、どのような考え方で決めているのでしょうか?

3-1 乳がんの治療、実は大きく分けて2つある

3-2 乳がんは手術だけでは根治しない?

3-3 乳がんの「サブタイプ」聞いたことありますか?

3-4 乳がんの治療にはいろいろな段階があります

3-1

乳がんの治療、実は大きく分けて2つある

実は、乳がんの治療は、大きく2つにわけることができ、治療の目標や戦略がかなり違います。

一つ目は、手術可能な乳がんです。

目標は乳がんの根治です。手術の前後の薬物療法を含め、一時的なつらい治療も厭いません。

二つ目は、転移・再発乳がんです。

こちらはQOL(生活の質)を保ちながらなるべく長く生きる、ということを目標に治療を行います。原則として、QOLが下がってしまうようなつらい治療は行いません。

3-2

乳がんは手術だけでは根治しない?

手術可能な乳がんの治療を受けている患者さんから、「がんを手術でとったのに、なぜその後も薬の治療が必要なんですか?」と質問されることがあります。
その答えは、乳がんはごく早期の段階でも全身にがん細胞が広がっていると考えられているからです。

抗癌剤・ホルモン治療などの薬物治療がなぜ重要か?

3072例の手術がなされた乳がん患者さんに対して術中に骨髄穿刺が施行された

手術中に骨髄穿刺を施行
乳がん細胞の有無を検討

​(Disseminated tumor cell : DTC)

全症例の24%で骨髄中に乳がん細胞が存在した。

T1症例(腫瘍の大きさ2cm以下)の22%で骨髄中に乳がん細胞が存在した。

早期の乳がんにおいても、すでに骨への転移を生じている。

(Hartkopf et al., Ann Oncol, 2015)

アメリカで2015年に行われた研究では、手術前の画像検査では転移がなかった乳がん患者さんの骨髄を調べたところ、24%の患者さんでがん細胞がみつかりました。T1症例(腫瘍の大きさ2cm以下)の早期症例でも22%でがん細胞が骨髄に存在し、乳がんは早期でも全身にがんが広がっているということがわかる結果でした。 

■手術・放射線・・・・・・・

 

 

■抗がん剤・内分泌治療・・・

局所(患部だけ)の治療

→ 目に見える乳がんを確実に除去

全身に届く治療

→ 全身にちらばったがん細胞を除去

・「局所の治療」と「全身の治療」は必ず両方を行う

・乳がんの種類にあわせて上手に組み合わせて行うのが最良の乳がん治療

実際、乳がん治療では、乳房(局所)だけでなく、全身にちらばったがん細胞も一緒に治療することが重要です。局所と全身の両方の治療を組み合わせて行うことで、乳がんの治療効果は飛躍的に向上し、今ではStageIの患者さんでは90%以上で根治が見込めるまでになりました。
乳がんを「治るがん」にしたのは、この局所治療と全身治療の組み合わせなのです。

3-3

乳がんの「サブタイプ」聞いたことありますか?

乳がんにはサブタイプという、いくつかの種類に分類されます。

種類が違うとがんの性質も全く違うため、共通点は乳房にできるということだけで、ほぼ別の病気と捉えます。

胃がんと大腸がんの治療が違うように、サブタイプが違うと、治療も変わります。

乳がんは

単一疾患ではない

少なくとも4病型に

​分類できる

日常的に簡単に分類できるように簡略化しています

治療のバリエーションやタイミングはサブタイプやその人の社会的な事情により、大きく異なります。

サブタイプ分類については少し難しい話になります。

サブタイプは、乳がんの遺伝子の発現具合をクラスター解析(パターンの似た者同士を集めてグループ化する分類法)したところ4つにわかれた、というところから始まりました。しかし、日常診療では毎回がんの遺伝子解析をすることはできないので、代わりに、ホルモン感受性とHER2の検査を使って、遺伝子発現で分かれたグループとほぼ同じように分類するように簡略化しています。

サブタイプが変わると、効く薬が全く変わります。手術の術式はどのサブタイプの乳がん患者さんでも同じですが、手術時期や全身治療の種類はサブタイプや患者さんの社会的な事情で、大きく異なります。

3-4

乳がんの治療にはいろいろな段階があります

一般的な手術可能乳がんの治療の過程でも、さまざまな治療の段階があります。患者さんがいまどの段階にあるのか、そこでの治療の意味や目的が何なのか、他の科のお医者さんからはわかりにくいことが多いため、乳がんの専門医が積極的に関わっていく必要があります。

生活や仕事のリズムも治療の段階にあわせて変化する必要があります